本音は、聞こうとした瞬間に出てくるとは限らない

上林ほたる
国家資格キャリアコンサルタント
本音は面談で即座に引き出せるものではなく、対話やふとした瞬間に現れるものです。一度の面談で聞き出すことにとらわれず、後から出た気づきを拾い直せる仕組みや、対話を通じて自己理解を深め、環境改善に繋げる姿勢が重要です。働く人の声を生かすための、本音との向き合い方を解説します。

誰かに話を聞いてもらうことで、それまで自分でも気づいていなかった気持ちや違和感が、ふっと言葉になる。
そんな経験はないでしょうか。
営業先への移動中。
デスクでとるコーヒーブレイク中。
親しい友人との飲み会。
「話すつもりはなかったのに、出てきた」と、自分でも驚くことがあるかもしれません。
そして、内容によっては、その場を離れてから「ここまで話してよかったのかな」とソワソワしてしまうことも。
このように、私たちが自分の本音に気づく瞬間は、思いがけずにやってきます。
2. 話すことで、気づく
話しながら考えが整理されたり、相手から返された言葉によって「自分はこんなことを大切にしていたんだ」と気づいたりする。
対話には、そんな力があります。
冒頭でお話ししたような場面では、会議室の中では出てこない本音が、ポロリとこぼれることがあります。
聞いた相手が共感してくれたことで、そこからさらに言葉が続いていくことも。
こうした本音は、リラックスしているときに出てくることが多いように思います。
一方で、働く人の「本音」を聞くための時間として設けられているのが、社員面談や評価面談、上司と部下の1on1などです。
「気になっていることや、困っていることはありませんか」
そう尋ねる機会を、定期的につくっている会社も多いのではないでしょうか。
けれど、いつもの会議室で、日頃一緒に仕事をしている上司と向き合って行う面談には、どうしてもある程度の緊張感が伴います。
信頼関係があるかどうか、上司が気さくな人かどうかだけでは解消しきれないものもあります。
では、本音を聞くために、何ができるのでしょうか。
3. 本音は、問いかければ出てくるものではない
まず考えておきたいのは、面談で本音が出てこないからといって、本人が意図的に隠しているとは限らない、ということです。
「困っていることはありませんか」と聞かれても、本人自身がまだ自分の違和感に気づいていないことがあります。
その場では「特にありません」と答えたのに、帰り道や翌日のふとした瞬間に、
「もしかして、あの仕事がずっとしんどかったのかもしれない」
「私は、本当はこうしたかったのかもしれない」
と気づくこともあります。
本音は、いつでも本人の中に完成した言葉として置かれているわけではありません。
誰かと話したり、出来事を振り返ったりする中で、少しずつ輪郭が見えてくるものもあります。
だからこそ、「聞けば、その場で答えが返ってくる」と考えるだけでは拾いきれない声があります。
4. 大事なのは、「引き出す」より「拾える」こと
そう考えると、面談の役割も少し違って見えてきます。
一度の場で、すべてを聞き出すこと。
それだけを目指すのではなく、あとから出てきた気づきや、少し時間が経ってから言葉になった違和感を、もう一度話せること。
直接の上司には話しづらいことを、別の相手になら話せること。
本人が話した内容を整理しながら、自分でも気づいていなかったことに気づけること。
そうした複数の機会があることで、働く人の声は少しずつ見えやすくなっていきます。
大切なのは、一度の面談で「本音を引き出す」ことよりも、本人の中から出てきた言葉を、あとからでも拾えることなのかもしれません。
5. 本音を「聞いた」で終わらせない
そして、せっかく出てきた言葉も、聞いて終わりではもったいない。
本人が、
「自分は何に困っていたのか」
「何を大切にしたかったのか」
「どんな働き方を望んでいるのか」
を整理できれば、その声は本人自身の自己理解につながります。
さらに、働く中で生まれた違和感や困りごとの中には、本人の考え方や努力だけでは変えにくいものもあります。
仕事の進め方、役割、周囲との関係、職場の環境。
そうしたものと関係しているのであれば、本人だけの課題として抱えさせるのではなく、必要に応じて環境の側にも目を向けていくことが必要です。
本音を聞くこと自体が、ゴールではありません。
出てきた言葉を、本人の理解へ。
そして必要なら、より働きやすい環境を考えるための材料へ。
その先までつなげることが、働く人の声を生かすことにつながるのではないでしょうか。
6.働く人の声を生かすために
「本音を話してください」と言われた瞬間に、本音が出てくるとは限りません。
だからこそ、一度の面談で聞き切ろうとするのではなく、
気づいたときに言葉にできること。
出てきた声を拾い直せること。
そして、その声を次につなげられること。
そんな仕組みまで考えることが、働く人の声を生かすためには必要なのではないでしょうか。
この記事を書いた人

上林ほたる
国家資格キャリアコンサルタント
NPO法人キャリア形成推進研究所 運営会員。WBS(ウェルビーイング・ブリッジ・サービス)の広報・発信を担当しています。「働く人が安心して話せる場」をどう広げるか、現場の声に近いところから等身大で綴っていきます。